かたくななバースデーパーティー

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母は自営業をしており、とても忙しかった。
同学年の子どもと同じようなイベントをしてもらった記憶はほとんどない。
しかし一度だけ、お誕生会を開いてくれたことがあった。

それは、ちょっと意外な、一般家庭にはない理由からだった。

私には姉と弟がいて3人きょうだいで育った。
その3人ともが、いかに食事を少なく食べるかで食事のたびに争っていたのだ。
なぜか3人ともが食事に興味がなく、できる限り少ない盛り付けにされている器を自分のものにしようと、母の目を盗んでは器ごと取り替えたり、きょうだいの器に箸でよそって移し替えたりした。

黙っていたら、次々と姉や弟からご飯やおかずが盛られてしまうのだ。
毎日が食事の押し付け合いだった。
母に気づかれたら毎回叱られたものだ。

母はなんとか子どもたちに食べさせようと悩んで、ある名案が思いついた。それがお誕生会だった。
近所の子どもたち、ゆりちゃん、ひでくん、すみちゃん、のぶくんが集められ、たくさんのご馳走が並び、ケーキも用意された。

「お誕生日おめでとう!」

プレゼントをもらい、子どもたちはみなうれしそうにご馳走を食べていた。
母は子どもたちに問いかけた。「みんな、おいしい?」
「おいしい!」と声が一斉にこだました。

私はご馳走に目もくれず、プレゼントに夢中だった。
ひでくんは何度も「おいしいよ」と言って食べかけの料理を差し出してきたが、私は気になりつつもそれどころではなかった。

今度はのぶくんが私の分を指して「これ食べないなら、食っていい?」と聞いてきた。
「うん!」と答えると、食べなくて済むことに笑みがこぼれてしまった。

のぶくんが食べていると、さすがに母は気づく。
「あっ! こらっ、人のとったらダメでしょう!」
「だって、いいよって……」

作戦失敗した私はこっぴどく叱られた。

しかしお誕生会は母にとっても失敗だったようだ。
年に1回のお誕生会でたくさん食べさせても量は知れているが、人が美味しそうに食べているなら自分も食べたくなるだろうと、もくろんだのだろう。実際、ひでくんとゆりちゃんはしつこく私に食べるように声をかけていた。
母親同士の相談で、子どもたちが協力することになったのだと思う。
今、思えばのぶくんは、食べたがらない私に気を使って食べてくれたのかもしれない。のぶくんは事情を知らず、私のことがかわいそうに思ったのだろう。

母には申し訳なかったが、私はどうしても食べることに興味がもてなかった。

それから二度と誕生会は開かれることはなかった。

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