私はなにを食べたのだろう?

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小学3年生の授業を終えて下校途中のことだった。
アパートの2階のベランダから外を眺めているお姉さんと目が合ってしまった。20代後半だと思われるその女性は外に出てきて、私に声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、今、学校帰り?」
「はい!」
「あのね、おなか空いてない?」
「えっ?」
「おいしいパンがあるんだけど食べてくれないかなあ」
食い意地を張った私は、ほころぶ笑顔を隠し切れずにうなづいた。
今になって思えば怖い話だが、私は見知らぬ人に声をかけられ、その人の家に上がりこんだ。

「うわあ! おいしい!」
トーストに蜂蜜とバターを塗っただけのそのパンは、今まで食べたことのないおいしさだった。
私がおいしそうに食べるからか、そのお姉さんは言う。
「よかったら、また明日も来てね。あっ、でもお母さんに怒られると困るから、このことは秘密ね」
私は喜んで承諾し、有頂天になって帰宅した。
見知らぬ人が親に内緒だというのはますます危険である。しかし、当時は今ほど警戒する社会ではなかった。

2日目の下校時は自分からそのアパートの一室へと足を運び、呼び鈴を鳴らした。
招き入れてくれたお姉さんは昨日と同じはちみつバターパンをご馳走してくれた。
「そんなに気に入ってくれるなら、毎日いらっしゃい」
あまりのおいしさとお姉さんのやさしさに私は調子に乗ってしまった。
喜んで帰ったあと、さすがに毎日は気兼ねして、1日空けて訪れた。
お姉さんはいつも無表情だったが変わらず迎え入れてくれて、はちみつバターパンをおいしくいただいた。

1日空けて今日は4回目。また食べにいこうと向かっていた時のことだ。
「さより!」友だちに呼び止められた。「どこへ行くの?」
――どうしよう……。お母さんじゃないから話してもいいか……。
私は、ことの顛末を友だちに明かした。
「いっしょに行きたい!」
私はそのおいしいはちみつバターパンを友だちにも食べさせてあげたいと思い、連れていくことにした。

ピンポーン!
返答がなかった。
ピンポーン!
出てくる気配がない。
小学生がアパートの2階の外通路で呼び鈴を何度も鳴らし、あれこれとしゃべっているので隣の住民に聞こえたらしい。ドアのちょうど向かいになる隣の部屋のドアが開き、おばさんが話しかけてきた。
「なにしてるの?」
「出ないんです……」
「そこはずいぶん前から誰も住んでないよ」
おばさんはそう言い残しドアを閉めてしまった。
「さよりちゃんの嘘つき!」
友だちは怒って帰ってしまった。

残された私は混乱した。
――あれはいったいなんだったのだろう?
――あの人はだれだったのだろう?
――私はだれと話していたんだろう?
――私はなにを食べたのだろう?
そういえば名前の記憶がなかった。部屋はさっぱりしていて白っぽく、まるで病院のようだった。もうなにがなんだかわけがわからなくなってしまった。

その後も何度か訪ねてみたが、やはり誰も出なかった。

あのはちみつバターパンのこの世のものとは思えないおいしさだけが、今もなお心に焼き付いている。

 

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